世界の高齢者


医療・福祉のIT化進む
地域格差解消や介護負担軽減
 来るべき超高齢社会に備えて、各国で様々な対策がなされている。医療・福祉の現場に関して言えば、そのキーワードは、IT化ということになる。先週に引き続き、6月に香港で開かれたソーシャルワーク世界会議の発表から、最新動向をお届けする。
 オーストラリアでは、在宅で超高齢期を過ごすことを希望する人が増え続けている。しかし、23万人(2008年)の認知症患者は、2050年には73万人になると予測されるなど、ケアが必要な加齢関連疾患の高齢者が急増する。そのため、より質の高いケアを提供するためには、どうしてもIT化は避けて通れない。幸いなことに、インターネットに慣れ親しんだ世代が介護者となり、やがて高齢期を迎えようとしている。遠隔医療、介護ロボット、バリアフリーでIT化したスマートハウス、救急時の支援ネットワークの構築、医療・健康情報の電子化などの研究が盛んだ。
「今後は、介護者の負担を軽減するためのシステム作りが、特に大切になる」とメルボルン大学のエリザベス・オザン教授は語る。また1980年代からはじまった情報の電子化は、救急医療、病院案内など医療サービスの向上に用いられることが多かった。「これからは福祉の情報を充実させなければならない」と発言したのは、デーキン大学のフリップ・ギリガム講師だ。
 フィンランド健康福祉省は、アプリケーションが違ったために互換性がなかったクライアントの情報システムを統一、標準化する作業を2005年から進めている。2011年に終了すれば、地域格差が解消、福祉サービスの均てん化が進むことが期待されている。米国テキサス大学アーリントン校では、患者指導のためにウェブ電話を利用、高齢の精神疾患患者で薬の飲み忘れが少なくなるなど、服薬コンプライアンスが向上したという。また香港大学からは、自閉症の患者が、不得意であるコミュニケーション力を、文字ではなく、絵やビデオを通して学ぶiPhone用ソフトが紹介されるなど、IT化による新たな医療、福祉サービスの可能性が、報告された。
日刊工業新聞 2010年7月23日

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