日本の高齢者


成年後見制度普及へ
認知度向上や人材不足解消を
 「2010年成年後見法世界会議」(10月2~4日 横浜)は、認知症や精神疾患などで判断能力が不十分になった人の権利を擁護する成年後見制度についての世界初の国際会議だった。その成果は、横浜宣言にまとめられた。前回このコラムで、わが国の成年後見法には医療行為の同意権がないことに問題があると述べたが、宣言の中で、今後の課題として、さらに①家族のいない人にために、市区町村長申し立てが積極的に実施できるよう法整備を行う。②費用負担が困難である人に対して公的な費用補助を行う。③後見が始まると選挙権が剥奪される欠格事由を撤廃することなどがあげられた。
 日本人の多くは、年をとることに無防備だ。85歳になれば4人に1人、120歳まで生きれば全員が認知症を発症する。そのことを直視できず、自分だけはPPK(ピンピンコロリ)で死ぬから大丈夫だと思っている人が意外に多いのではないだろうか。また自分の死について考えることは縁起でもないと思い、老いに備えることを先送りしている。その結果として、成年後見制度がないがしろにされている。
 判断能力が既に失われたか、不十分な人のための法定後見の利用者は17万人でしかない。将来、自分の判断力がなくなった時に備え、あらかじめ後見する人を決めておく任意後見にいたっては4万人だ。制度の趣旨が衆知されず、漠然と知っているものの、実際の手続は知らないという人がほとんどなのだろう。任意後見契約は単なる委任契約とは違い、公証人が公正証書で契約書を作成、原本を保管、法務局に登記をするというきわめて厳密な契約だ。
 現在、後見人の60%は親族が占め。残りが専門職(弁護士、司法書士、社会福祉士)である。専門職後見人の需要は、年々増えているが、2万人に満たないという状況だ。後見制度の不備を改善するとともに、多くの人に熟知してもらうこと。さらに日常生活を支援する市民後見人の養成など後見人不足を解消することが、何よりも求められている。
日刊工業新聞 2010年10月29日

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